死に方について

「今死んだとしても、別に大して気がかりはないな。子供の成長を見守れないのだけは残念だけど。」と彼は言った。
先日夫と寿命について話していた時のことである。
子供のことにしても、就職、結婚、孫の顔を見る。この3段階があって、一つでもクリアできたらもう十分だと。

　以前深部静脈血栓を左下腿と肺で起こし、ワーファリンを服用中だが、それ以外は今現在健康状態に不安があるわけではない。
それにもちろん投げやりな気持ちで生きているわけではない。毎日真面目に会社で働き、休みの日には子供の相手をする、妻ともよく話し、芝刈りや洗濯など、できる範囲で家庭のこともする良き社会人であり、父であり、夫である。

「それだけ今が幸せだということかな。」
と彼は冒頭の言葉の後、独り言のように付け加えた。

自分にしてみても、確かにそういえばそうだな、と納得する部分もある。子供に対しての責任があるから、それはきちんと果たしてゆきたいとは思うけれど。

（後は、見られたくないものを片付けたり、物を処分したり、何よりも修行不足なので、命ある限りそこは頑張らなければいけない…。そういう意味での焦りのようなものはある気がする。）

「痛みや苦しみはいやだけど、死そのものは別に怖くない」
と言ったら「それは、まだ『死』が非現実だからだ」と指摘されるだろうか。そうかもしれない。
　似たもの夫婦の願う最高の死に方は
「前の晩まで普通に過ごしていたのに、朝になったら布団の中で冷たくなっていた」というもの。
その時には言わなかったけれど、こっそりと私自身の願いを付け加えるならば、「夫より一日でも先に」ということ。後に残されたくないのだ。
これは自分でもかなり我がままな望みかな、と自覚している。