プラダを着た悪魔～The Devil Wears Prada～追記

　どうでも良いことかもしれませんが、
「書き漏らしてしまったな」とちょっと心に引っかかっていたことが一つ。

悪魔のような上司、メリル・ストリープの話し方や声のこと。

　どういうことかというと、権力の頂点に君臨する彼女の声が、あくまでもソフトで静かで囁くように穏やかだったということ。時に優しい響きすら帯びる低めの声。

でもそれを耳にする者にとっては「絶対の怖さ、鋭さと響き」を内包する。
それどころか、時には言葉さえ発せずに、小さく頷くとこや口を微かにすぼめることで周りのスタッフは大慌て、必死の形相で右往左往する。

　彼女の一挙手一投足に周囲の意識が凝集され、彼女の意思のままに人が、物が動き、企画や仕事が出来たと思えばやり直され、事態が生き物のように変化しながら完成に向かって進んでゆく。

　本当に権力を掌握するというのはああいうことなのだろう、と思ったのだ。
額に青筋立てて怒鳴ったり、大げさな身振り手振りを交えずとも思うままになってゆく。やんちゃな息子たちを怒鳴りまくりながら、嵐のような日常を送る私からは程遠い生活。もちろん、羨ましいとは思わないし、あの上司のような存在になりたいなんて誓って全く思わないが…。

それでもまだ、あのちょっと低めの静かな声が耳に残っている。

　メリル・ストリープという女優に惑わされてしまったのだろうか。
でもこういう惑わされ方というのは、これはこれで結構心地良いものだ、などと思ってしまう物語好きの私のつぶやき。